放課後の教室は、昼の喧騒が嘘みたいに空いていた。窓の外ではグラウンドの歓声がまだ遠くに残っていて、その響きが妙に薄く感じる。章吾は空き教室の机に両手をつき、目の前に並ぶ三人を見た。優斗は真面目な顔を作ろうとして失敗し、一颯は腕を組んだまま天井を見上げ、晴希は椅子を引きずって落ち着かない。誰もが原因を探す気ではいるのに、確信だけがどこにもなかった。 「朝から変なことあったか、って言われてもな」 優斗が首をひねる。章吾は苦い顔のまま、今日一日を頭の中でたどった。眠っている間に何かが起きたとしか思えない。けれど、誰かに触れた覚えも、落とした覚えもない。そうなると、余計に手がかりがない。 「制服じゃなくて、服のほうに原因があるとか?」 一颯が軽く言うと、晴希がすぐに身を乗り出した。 「それならもう調べたほうが早くない? 貸し借りとか、昨日の帰り道とか」 「適当に広げるなよ」 章吾が低く返すと、三人は一瞬だけ黙った。だが、重い空気を払おうとしたのか、優斗がわざと大げさに肩を叩いてくる。 「でもさ、今のお前、普通にかわいいし。案外そのままでもいけるんじゃね」 「ふざけるな」 反射で身を引いた拍子に、机が小さく鳴った。優斗は笑い、一颯は吹き出し、晴希まで堪えきれずに口元を押さえる。章吾は耳まで熱くなるのを感じながら、やっぱり距離の詰め方を間違えていると悟った。慰めるつもりなのは分かる。けれど、その言葉のひとつひとつが、今の自分には針みたいに刺さる。 「章吾、ちょっとこっち向けって」 晴希がまた手を伸ばす。章吾は即座に椅子ごと下がったが、狭い教室では逃げ場がない。優斗まで面白がって立ち上がり、一颯が 「ほら、逃げるな」 と笑う。輪が急に騒がしくなり、机も椅子もきしんだ。 「だから触るなって言ってるだろ」 「触ってない触ってない」 「その距離がもう触ってるのと同じだ」 三人が一斉に笑い出し、章吾は頭を抱えたくなった。結局、元気づけるどころか、ただ騒ぎが増しただけだ。だが怒鳴り返せばますます面白がられるだけで、どう転んでも不利だった。章吾は深く息を吐き、乱れた前髪を指で払う。その仕草ひとつにまで反応され、また笑い声が起きる。 「ほら、そういうとこだよ」 「今日の章吾、全部反応が強いんだよな」 「そりゃそうだろ、こんな目に遭ってんだから」 不意に、一颯の声だけが少しだけ落ち着いた。ふざけた輪の中で、その言葉だけが妙に真っ直ぐだった。章吾は返事をし損ね、視線を落とす。気遣われているのに、騒がしい。放っておかれているわけでもないのに、落ち着けもしない。 「で、明日どうする」 優斗がようやく机に戻って、そう言った。 誰も答えなかった。明日になれば何か分かるのか、それとも同じように振り回されるのか、見当もつかない。教室の外では夕方の気配が濃くなり、窓ガラスに薄く影が映る。章吾はその向こうを見つめたまま、結局まだ何も決められていないことを認めるしかなかった。
朝になったら美少女
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