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青い迷宮の落とし穴

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6章 / 全10

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柚乃は壁に背を預けたまま、ゆっくりと息を吸った。浅くなっていた呼吸が乱れたままだと、ただでさえ近い感覚がもっと騒がしくなる気がしたからだ。胸の上下を数え、吐く息を長くする。ひんやりした空気が喉を通るたび、さっきまで暴れていた焦りが、少しずつ輪郭を失っていく。 青いスライムはすぐ目の前で揺れていた。のろのろしているように見えて、柚乃が反応するたび、妙な圧を広げてくる。そのたびに視界がざわつく。だが、ただ逃げると、かえって自分の動きに飲まれる。柚乃はその事実に、ようやく気づいた。 「……待って。動けば動くほど、変になる」 声は小さかったが、はっきりしていた。彼女は杖を強く握るのをやめ、指先の力を抜いた。青い影に意識を奪われると、体まで引きずられる。なら、まず見るべきはあれそのものではない。部屋だ。壁だ。床だ。封じるために作られた仕掛けなら、必ず働き方があるはずだった。 柚乃は片膝をつき、視線を床の紋様へ滑らせた。魔力を吸う模様は、ただ広がっているだけではない。一定の位置で濃く見え、別の場所では途切れている。そこへスライムが弾むと、空気の重さも微かに変わった。刺激の強さに合わせて、部屋そのものが反応している。そう考えると、今まで感じていた不快な波にも筋道が見えてくる。 「私を追い込むと、何かが強くなる……?」 はっきりとは言えない。けれど、反射で飛び退くたびに苦しくなった理由は、それで説明できそうだった。柚乃はひとつ頷き、今度は急がずに床の縁を目で追った。石の継ぎ目、紋様の切れ目、壁に走る古い筋。魔法が使えないなら、残るのは観察と手元の感覚だけだ。 呼吸はまだ少し速い。それでも、先ほどまでのように心が散らばることはなかった。青いスライムが弾むたび、彼女は身を引く代わりに、どこで部屋が応じるのかを確かめる。逃げるだけでは悪化する。ならば、落ち着いて仕組みを探すしかない。 柚乃は唇を結び、目の前の青い揺らぎと、足元に刻まれた古い印のあいだへ視線を往復させた。暗い封印室の静けさは変わらない。けれど、その中で彼女の意識だけが、ようやく確かな方向を持ちはじめていた。

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