エラベノベル堂

青い迷宮の落とし穴

全年齢

小説ID: cmp7yote405o301o62fo4k9ud

8章 / 全10

青い迷宮の落とし穴 の小説画像

柚乃はレリーフの前で、小さく息を吐いた。さっきまで張りつめていた空気が、ほんのわずかにほどけた気がする。だが封印が弱まっただけで、部屋そのものが開いたわけではない。青いスライムはなおも床の上で揺れ、柚乃の神経を細く撫で続けていた。 そのときだった。足元の石に、かすかな風の流れが触れた。最初は気のせいかと思ったが、次の瞬間には確かに裾をかすめる。柚乃は目を見開き、床へしゃがみこんだ。冷えた石板の継ぎ目に耳を寄せると、地下の奥から細い息のような音が漏れている。 「……風?」 つぶやきは震えたが、確かな手応えだった。封印室の底のさらに向こうに、外へつながる抜け道があるのかもしれない。柚乃は指先で石の境目をなぞり、風が強くなる筋を探した。床下のどこかに、通気のための小さな孔がある。そこへ空気が通っているのだ。 彼女はゆっくり立ち上がり、視線を床際へ走らせた。壁の仕掛けを追っていた時には気づけなかったほど細い隙間が、石の影に沈むように口を開けている。けれど、そこから吹く風はすぐに弱まった。青いスライムが、そのあたりを塞ぐようにふるえたからだ。 「やっぱり、あれが……」 柚乃は唇を噛んだ。外へ抜ける道は見つかった。だが、スライムがそこに居座るかぎり、風は細り、脱出の糸口にもならない。魔法は使いにくい。なら、残るのは手元にあるものと身体だけだ。 彼女は腰の小袋を探り、冒険用の短い紐と、落下の衝撃で少しずれたままの金具を確かめた。派手な道具はない。それでも、結び、引っかけ、支えるくらいならできる。柚乃は紐を指に巻きつけ、手首の動きを何度か試した。体術なら、逃げ惑うだけだった頃より、今のほうがずっと使いようがある。 青いスライムが再び弾む。柚乃は一歩引かず、逆に半身を低くした。風の通る位置、スライムの揺れ、床の継ぎ目。全部をまとめて見ながら、最後に必要なのは力任せではないと自分に言い聞かせる。封印を少しずつほどいた今なら、次の一手で流れを変えられるかもしれない。 彼女は紐の端を握りしめ、排気孔へ向けて静かに構えた。

8章 / 全10

TOPへ
青い迷宮の落とし穴 | エラベノベル堂