布団の中で、亮は自分の心臓が妙に大きく鳴るのを聞いていた。さっきまでのぬくもりが、急に意味のわからないものに変わっていく。 「……え、待て」 掠れた声が漏れる。暗くて顔は見えないのに、相手の呼吸だけはすぐそこにある。 「お前、翔太だよな?」 問いかけると、向こうも少し間を置いてから、眠そうに返した。 「亮のほうが先に気づけよ……いや、ていうか、なんでそんな近いんだよ」 「知らねえよ。俺だって、結衣かと思ったんだって」 言い訳みたいな言葉が、布団の中で小さく跳ねる。亮は慌てて身体を引こうとしたが、寝ぼけた足が布団に絡んでうまくいかない。 「ちょ、動くな、余計にわかんなくなる」 「お前が言うな」 翔太の声には、まだ眠気が残っているのに、ちゃんと呆れが混じっていた。その響きで、亮はますます血の気が引く。 たしかに、触れ方も違った。先ほどのやわらかい手つきではなく、無意識に距離を測るみたいな、少し硬い受け止め方だった。それなのに、亮はそれを恋人のものだと決めつけて、すっかり安心していたのだ。 「うわ……やば」 「やばいのは今さら気づいたことだろ」 「うるさいな。こっちは寝起きなんだよ」 「寝起きで済む範囲じゃねえだろ」 翔太が小声で返すたび、亮の頭の中はどんどん散らかっていく。隣で眠っているはずの結衣の気配が、いつの間にか遠い。代わりに、すぐそばにいるのは別のカップルの男で、しかも自分はそのまま寄り添っていた。 「……ごめん」 ようやく絞り出した一言に、翔太は少し黙ったあと、鼻で笑った。 「謝るなら、まず離れろ。俺のほうが恥ずかしくなる」 「それはこっちもだ」 亮は小さく身をよじって、なんとか距離を取ろうとした。だが、その動きで布団がさらに乱れ、寝息の混じる静かな部屋に、やけに大げさな音が立つ。 「起こすなよ……」 「お前が言うなってば」 二人とも声は抑えているのに、低く押し殺したやり取りだけが妙に生々しい。亮は暗闇の向こうを見つめたまま、今さら自分がどれだけ寝ぼけていたかを思い知っていた。 たぶん、さっきの安心は、本当に安心だったのだろう。だからこそ間違えた。そう考えると、余計に顔から火が出そうになる。 「なあ、亮」 「なんだよ」 「次、目ぇ覚ましたら、ちゃんと確認しろ」 「……言われなくてもそうする」 翔太の声は半分あきれ、半分だけ笑っていた。亮は返事の代わりに、布団の端をぎゅっと握りしめる。 そして、部屋の闇はまだ深いまま、二人は次のひそひそ話を始めてしまう。
湯上がり勘違い夜話
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