「よかったら、一緒にどうですか? 料理も多いですし」 将人は自然に言葉を紡いでいた。華蓮は一瞬戸惑った表情を浮かべたが、やがて小さく頷いた。 「……ありがとうございます。それじゃあ、お言葉に甘えて」 二人は将人の部屋へと移動した。女将が運んでくれた膳には、山菜の天ぷら、旬の魚の焼き物、煮物、そして地酒の小瓶が二つ並んでいる。 「豪華ですね」 華蓮が目を輝かせる。 「平日だからこそ、豪華に作ってくれるんでしょうか」 将人は酒を注ぎ、彼女の杯にも同じように注いだ。 「乾杯……かな。出会いに」 少しキザかなと思いながら言うと、彼女はくすりと笑った。 「乾杯、旅の非日常に」 酒を口に含むと、芳醇な香りが鼻腔をくすぐる。温かい液体が喉を通り抜け、身体の芯から温まっていく気がした。 「実は、仕事で疲れてて。何もかも忘れたくて来たんです」 将人は正直に打ち明けた。華蓮は箸を止め、真剣な眼差しを向けてくる。 「……私もなんです」 彼女は俯き、指先で杯の縁をなぞった。 「毎日、周りの期待に応えなきゃって。自分のことなんて後回しで。ある日ふと気づいたら、自分が何をしたいのか分からなくなってて」 その声には、深い疲労と孤独が滲んでいた。将人は胸の奥が締め付けられるような感覚を覚える。 「逃げてきたんですね」 「……はい。逃げてきました」 彼女は自嘲気味に笑った。 「でも、ここに来て正解だったかもしれません。将人さんに出会えたから」 照明の橙色的な光が、彼女の白い肌を妖艶に照らしている。潤んだ瞳、ほんのりと朱色に染まった頬。酒のせいか、それとも。将人はごくりと喉を鳴らした。彼女との距離が、いつの間にか縮まっていることに気づく。畳の上、料理を挟んだ向かい側にいたはずの彼女が、いつの間にか隣に座っていた。 「華蓮さん……」 「将人さん」 彼女の甘い吐息が、将人の頬をかすめる。部屋には濃密な空気が漂い始めていた。
山奥で見た素顔
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