酒の空き瓶が二つ、膳の脇に転がっていた。時刻は深夜に近い。窓の外では風が木々を揺らし、遠くで梟の声が微かに聞こえる。 「もうこんな時間……」 華蓮が呟きながら、ふらりと身体を揺らした。浴衣の襟が少し乱れ、白い鎖骨が露わになる。将人は無意識に視線をそこに向けてしまい、慌てて目を逸らした。 「部屋、戻られたほうがいいんじゃ?」 「……戻りたくないです」 彼女の言葉が、重たく沈黙の中に落ちた。潤んだ瞳が、将人を真っ直ぐに見つめている。その眼差しには、孤独と、何か切羽詰まったような渇望が混じっていた。 「一人の部屋に戻ったら、また考えちゃう。自分のこと、これからのこと。全部」 「華蓮さん……」 「将人さんは、逃げてきたんですよね。私と同じように」 彼女が身を乗り出す。酒の香りと、彼女自身の甘い香りが混じり合う。将人は鼓動が早くなるのを感じた。 「私、今夜だけは……一人になりたくないんです」 その声は震えていた。けれど、彼女の瞳の奥には、弱さだけではない、何か誘うような光が宿っていた。将人は理性が音を立てて崩れていくのを感じる。日常の疲れ、孤独、そして目の前の美しい女性。全てが混ざり合い、衝動となって押し寄せてきた。 「俺も……一人には戻りたくない」 将人は手を伸ばし、彼女の華奢な肩を引き寄せた。抵抗はない。むしろ、彼女は自らその胸に身を預けてきた。 「将人さん……」 吐息交じりの囁き。将人は彼女の顎に指をかけ、ゆっくりと顔を近づける。華蓮は瞳を閉じ、少し震える唇を待っていた。 重なる唇。柔らかく、温かい感触。最初は触れるだけだった口づけは、やがて深く、貪るようなものへと変わっていく。彼女の腕が将人の背に回り、浴衣の生地を強く掴んだ。
山奥で見た素顔
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