エラベノベル堂

神様の告白

全年齢

小説ID: cmpildw970fnb01pkj66eobvc

3章 / 全10

神様の告白 の小説画像

「ちょっと、休んでいい?」 花がそう言ったのは、縁台を離れてから少し歩いたあとだった。強がっていた足取りが、もう隠し切れていない。章太はすぐに周囲を見回し、人の流れが途切れる細い脇道を見つけた。 「大丈夫か」 「大丈夫じゃないかも。今日、歩きすぎた」 「そんなに回ったか」 「章太が付き合ってくれるからでしょ」 言い返す声はいつもより弱い。花は苦笑しながら、神社の裏手へ続く石段を見つめた。参道の喧騒が嘘みたいに遠くなり、草の匂いと土の湿り気が夜気に混じる。 「ここなら少し静かだな」 「うん。座ろ」 花は裾を気にしながら、ちいさな石段にそっと腰を下ろした。章太も隣に座る。肩が触れそうで触れない距離が、さっきまでよりずっと近い。 花は足首を軽く回し、息をついた。 「……ふう」 「無理すんなよ」 「してない。たぶん」 「たぶんってなんだよ」 「章太の前だと、つい意地張るから」 花はそう言って、困ったみたいに笑った。章太は返事に詰まり、視線を足元の石に落とす。ここまで来ると祭りの音は途切れ途切れで、代わりに虫の声がやけに大きい。 花の呼吸が、少しずつ落ち着いていく。さっきまで張りつめていた空気も、ようやくほどけそうだった。 「……楽になった?」 「うん。ありがと」 そのときだった。 境内の奥から、ひやりとした風が流れてきた気がした。木々が鳴ったわけでもないのに、背筋だけが妙にざわつく。章太は思わず顔を上げる。 「今、何か」 「感じた?」 花の声が、ほんの少しだけ硬くなっていた。 「いや、気のせいかもしれないけど」 言い終える前に、花がじっと奥を見たまま動かなくなる。提灯の光が届かない暗がりに、見えないはずの気配だけが濃くなっていくようだった。 「花?」 呼びかけても、すぐには返事がない。やっと振り向いた彼女の表情は、さっきまでの花とは違っていた。目の奥に、知らない色がひとつ混じる。 「……章太」 低く落ちた声に、章太の心臓が強く打った。 「どうした」 花は答えず、小さく息を吸う。その瞬間、夜の静けさが、目に見えない何かで満たされていくように感じられた。

3章 / 全10

TOPへ