エラベノベル堂

神様の告白

全年齢

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4章 / 全10

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「……あー、やっと入れた」 花の口から出た声は、けれど花のものではなかった。 章太は思わず背筋を伸ばす。目の前の顔は花のままなのに、そこにいる誰かの気配だけがまるで別物だ。 「花?」 「違う違う。いまの私は、ちょっと古いものだよ」 にやりと笑った口元が、花らしからぬ軽さで動く。章太は息を呑んだまま、隣に座る花の体から目を離せなかった。 「何が起きてるんだよ」 「そう焦らないで。せっかく呼ばれたんだから、もっと歓迎してくれてもいいのに」 「呼んでない」 「呼んだよ。さっきから、この子がずっと我慢してたから」 章太が言葉を失うと、花の体は肩をすくめた。けれどその仕草の奥に、苦しそうな花本人の気配もかすかに混じっている気がした。 「見えてるよ、奥のほうで、じたばたしてるの」 「やめろ。花はどうなる」 「どうもならないよ。少し借りるだけ」 さらりと言ってのける声に、章太の喉がひくつく。 「借りるって、何を」 「この身体。便利でしょ。若いし、祭りの夜だし」 「ふざけるな」 「ふざけてるのは、そっちじゃない?」 花の顔が、いたずらを見つけた子どもみたいに笑う。その笑みは花の普段の明るさと似ているのに、どこか底が知れなかった。 「ねえ章太」 「何だよ」 「この子、ずっと言いたかったみたいだよ。あなたと一緒にいると落ち着くって」 章太の心臓が跳ねる。 「そんなの、今言うな」 「今だから言うんでしょ。ほら、顔が真っ赤」 「うるさい」 「昔からそうだよね。気づいてるくせに、気づいてないふりをする」 花の口ぶりは軽いのに、言葉の端々は妙に正確だった。章太は否定しかけて、できなかった。花が本当はどう思っているか、触れないようにしていた場所を、目の前の何かは容赦なく指でなぞってくる。 「この子、ずっと隠してた。章太の隣にいると、嬉しいのに苦しいって」 「やめろ」 「やめない。だって面白いじゃない」 花の目が、ほんの少しだけ切なげに細まる。次の瞬間にはまた意地の悪い笑みに戻るのが、余計に混乱を招いた。 「章太だって同じでしょ。気になるくせに、ただの幼馴染って顔して」 「……違う」 「違わないよ。ほら、今だって逃げない」 「逃げてない」 「うん、偉い偉い」 からかう声の向こうで、花本人の気配が必死に何かを押し返しているようだった。けれど章太は、その混線した空気から目をそらせなかった。 「花を返せ」 「もう少しだけ」 そう言って、花の体は夜空を見上げる。虫の声が静かに鳴り、遠くの祭り囃子が風にほどけていく。 「この子はね、あなたに聞いてほしいことが、まだいっぱいあるみたいだよ」 章太は唇を結んだまま、隣の存在を見つめるしかなかった。花の中で揺れる意識と、悪戯っぽく笑う誰か。その境目が見えないまま、石段の上の夜だけがやけに静かに続いていた。

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