「……そんなに見つめられると、照れるんだけど」 花の口からこぼれた声は、花のものなのに、どこか愉快そうだった。 章太は息を飲み、けれど目を逸らさなかった。逃げたら負ける気がした。いや、何に負けるのかも分からないまま、ただこの場を曖昧に終わらせたくなかった。 「花に返れ。お前、勝手にしゃべるな」 「勝手ってひどいなあ。せっかく本人が言えないことを、代わりに言ってあげてるのに」 花の体は、裾を揺らして小さく笑う。その仕草が花そのものだからこそ、章太の胸は余計にざわついた。 「……言えないこと?」 「そう。こっちの子、ずっとあなたのこと気にしてた。祭りに誘われたときから、今日ずっと、隣を歩くたびにうるさくなってた」 「やめろって」 「やめない。だって、聞いてる側の顔が面白い」 章太は顔が熱くなるのを自覚した。否定したいのに、花の中にいる何かの声が妙に確かで、喉の奥がひりつく。 「花、本当に……」 言いかけると、花の瞳がわずかに揺れた。そこにいるのは悪戯な誰かだけじゃない。奥のほうで必死に何かを押さえ込んでいる花本人の気配が、かすかに伝わってくる。 「章太……聞かないで……」 小さすぎる声が、風にまぎれるみたいに漏れた。 章太の肩がぴくりと震える。 「花、いるのか」 「いるよ。いるけど、ちょっと動けない。がんばってるの、見えてる?」 「見えてる」 思わず答えると、花の顔がほんの少しだけやわらいだ。だが次の瞬間、また別の笑みがその表情を上書きする。 「ほら、そういうところ。ちゃんと受け止めるじゃん」 「茶化すな」 「茶化してないよ。むしろ褒めてる。逃げるかと思ったのに、意外と強い」 「逃げない」 章太ははっきり言った。自分でも驚くほど、声がぶれなかった。 「花が何を言おうとしてるのか分からなくても、俺は……ここにいる」 花の肩がわずかに揺れる。胸の奥で、何かが息を呑んだようだった。 「……へえ」 今度の声は少しだけ低く、面白がる調子の中に熱を含んでいた。 「それ、ちゃんと本人にも聞こえてるよ」 「聞こえてるなら、なおさら返してやれ」 「返したいのは山々なんだけどね。今のこの子、言いたいことが多すぎて、うまくまとまらないみたい」 花の指先が、膝の上でぎゅっと握られる。章太はその小さな震えに気づいてしまって、胸の奥が痛んだ。 「花」 呼ぶだけで精一杯だった。 すると花の唇が、ほんの少しだけ動く。 「章太……」 「うん」 「ちが……う、そうじゃ……」 言葉になりきらない声のすぐあとで、またあの軽い笑いが重なる。 「ほらね。こんな感じ。面白いでしょ」 「面白がるな」 「でも、もう少しだけ見ていたいな。あなたが真っ直ぐなの、嫌いじゃないし」 章太は返せなかった。視線の先で、花の中の気配がせめぎ合っている。引き戻そうとする力と、押し出そうとする勢い。その間に立たされている自分は、ただ受け止めるしかない。 夜風が社殿の軒をかすめ、遠くの祭り囃子を一瞬だけ運んでくる。静かな境内で、花の呼吸だけが少しずつ速くなっていった。
神様の告白
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