静寂が二人を包み込んでいた。結衣は胸の奥で渦巻く想いをどうすればいいのか分からず、ただ隼太の顔を見つめることしかできなかった。 「私、隼太くんのことが……」 言葉が喉まで来ているのに、唇が震えて先に進まない。幼馴染として過ごしてきた長い年月が、二人の間に見えない壁を作っているような気がした。 「結衣?」 隼太が不思議そうに首を傾げる。その優しい瞳に見つめられ、結衣はさらに胸が締め付けられた。 「ううん、何でもない」 誤魔化すように笑ったつもりだったが、引きつった顔になってしまったかもしれない。言わなきゃ。今この瞬間を逃したら、もう二度と言えないような気がする。結衣は握りしめた拳に力を込めた。 「あのね、私……」 その時だった。境内の奥から、ふいに冷たい風が吹き抜けた。結衣の髪が舞い上がり、浴衣の袖がはためく。 「わっ」 結衣は目を細めて風に耐えた。だが、風が収まった次の瞬間、奇妙な感覚が彼女を襲った。体が、動かない。 「え……?」 結衣は驚いて自分の体を見下ろした。だが、視線すら自由に動かせないことに気づく。まるで金縛りにあったように、指一本動かせないのだ。 「な、何これ……」 心の中で叫んでも、唇はピクリとも動かなかった。それなのに、体の感覚はある。浴衣の生地の感触も、下駄の硬さも、夜風の冷たさも、すべてはっきりと感じている。 「結衣さん、困ってるみたいね」 頭の中で、自分のものではない声が響いた。澄んだ、鈴のような美声。 「誰!?」 結衣は心の中で叫んだ。 「私はこの社の神。ずっと二人を見ていたのよ」 神様?結衣の意識の中で混乱が広がる。 「まあまあ、落ち着いて。あなたのその可愛い想い、私が叶えてあげる」 「えっ、何を……」 「体は少しお借りするわね。その代わり、あなたの願いを叶えてあげる」 結衣の体が勝手に動き出した。指先がピクリと動き、首がゆっくりと傾けられる。自分の体なのに、まるで他人が操っているような不思議な感覚。 「やめて!私の体を勝手に!」 結衣は心の中で必死に抵抗しようとしたが、体はまったく言うことを聞かない。むしろ、体の中にスッと力が満ちていくような感覚があった。 「ふふ、いい子ね。あなたのその一途な想い、応えたくなっちゃうわ」 結衣は恐怖と混乱で心がパニックになりかけた。だが、何故か不思議と悪い気はしなかった。目の前には、心配そうに自分を見つめる隼太の顔がある。 「結衣?どうしたの、顔色が……」 隼太が覗き込んでくる。その真剣な眼差しに、結衣の心臓がドキリと高鳴った。体は動かないはずなのに、胸の奥だけが熱く脈打っている。私は今、何が起きてるの?神様に憑依された?そんな非現実的なことが本当にあるの? 「結衣さん、安心して。私はあなたの体を傷つけたりしないわ。ただ……少しだけ手伝わせてもらうから」 手伝う?何を?結衣の問いかけに、神様の声は楽しそうに答えた。 「あなたが言えない言葉、私が代わりに伝えてあげる」 結衣の体——いや、神様に操られた結衣の体が、ゆっくりと隼太の方へ向き直った。
神様の告白
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