エラベノベル堂

約束の一本

18+ NSFW

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2章 / 全10

放課後の柔道場は静まり返っていた。夕日が窓から斜めに差し込み、畳の上に長い影を落としている。咲良は一人で準備運動を終え、腕組みをして入り口を睨んでいた。 「遅いわね。結局怖気づいたんじゃないの」 呟いた瞬間、ドアが軋む音と共に颯介が現れた。手には借りた道着を抱えている。 「来たわね。てっきり逃げ出したかと思ったわよ」 「逃げる理由がない」 颯介は無表情のまま、床に置いた道着に袖を通し始めた。その動作を、咲良はぼんやりと眺めていた。帯を締め、襟を整える一連の流れ。何の変哲もない着替えの筈なのに、どこか違和感がつきまとう。 「……アンタ、本当に柔道やってたの?」 自然と問いが口から滑り落ちた。颯介は視線を上げず、帯をきつく締めながら答える。 「中学までな」 「ふうん。まあいいわ、どうせアンタなんか私の敵じゃない」 咲良は畳の中央に進み出て、手招きした。 「ルールは普通の柔道と同じ。一本取った方が勝ち。文句ないわね」 「ない」 颯介は裸足で畳に上がり、ゆっくりと距離を詰めてきた。その足運びに、咲良は再び首を傾げる。素人ではない。それも、ただ習っていた程度の動きではない。まるで、長い時間を畳の上で過ごしてきた者のような、無駄のない歩法だ。 「どうした?始めるぞ」 颯介の声で、咲良はハッと我に返った。 「何よ、急にやる気じゃない。調子に乗らないでよね」 彼女は不敵な笑みを浮かべ、柔道の構えをとった。 「アンタがどんなに頑張っても、私には勝てない。その事実を身体に刻んであげる」 颯介は答えず、静かに構えた。その眼鏡の奥にある瞳が、奇妙な光を宿していることに、咲良はまだ気づいていなかった。

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