畳の上に散らる荒い息遣いだけが、静寂を打ち破っていた。咲良はうつ伏せのまま、痺れたような四肢を必死に動かそうとする。身体が鉛のように重く、指先一つ動かすのも億劫だった。 「はぁ……はぁ……こんなの、認めない……」 絞り出した声は震えていて、自分でも情けない響きだと分かる。颯介の体重が背中から退いた。その隙を逃してはならない。咲良は畳に爪を立て、弱々しく這いずろうとした。 「どこへ行くんだ」 低い声が降ってきたかと思うと、足首が強く掴まれた。 「ひっ」 無慈悲な力で引き戻され、畳の上で仰向けに転がされる。天井の明かりが眩しく、咲良は目を細めた。 「勝負はまだ終わっていないぞ」 颯介が見下ろしてくる。眼の奥は、冷ややかでありながら底知れない熱を宿していた。 「な……っ、私が、負けたってこと……?」 咲良は信じられないという表情で彼を見上げた。 「一本取られてないわよ。まだ勝負は……」 「お前、もう立ち上がれないだろ」 痛いところを突かれ、咲良は唇を噛んだ。確かに身体に力が入らない。さきほどの絶頂で、体力の大半を奪われてしまったのだ。 「卑怯よ……そんなことするなんて」 「柔道に卑怯もクソもない。勝った者が正義だ」 颯介は屈み込み、咲良の手首を片手でねじり上げた。 「あぐっ……」 関節を極められ、彼女は背中を反らせた。抵抗しようにも、力が入らない。 「賭けたよな。勝ったら何でも聞くと」 颯介はもう片方の手で、乱れた道着の襟を大きく広げた。 「だから、これから存分に頂く」 咲良の肌に夜気と颯介の視線が触れ、粟立つ。 「やめて……そんなの、おかしいわよ」 彼女は必死に身をよじるが、手首を押さえつけられ、身動きが取れない。颯介の顔が近づいてくる。 「観念しろ。お前は俺に負けたんだ」
約束の一本
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