エラベノベル堂

瓜二つの部下

全年齢

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4章 / 全10

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退勤前の営業フロアは、窓の外の薄い夕色と、机上の青白いモニター光がせめぎ合っていた。俺の目の前には、締め切りが明日に迫った企画書。午前から何度も直しているのに、要点がぼやけている気がして、手が止まるたびに焦りだけが増していく。 「一真さん、ここ、少し見てもいいですか」 隣から伸びてきた指先が、迷いなく画面の中央を示した。美桜は俺の返事を待たずに椅子を少し寄せると、数行の文章を目で追い、さらりと別の順番で組み替え始める。 「この導入、先方の関心より説明が先に立ってます。あと、この比較表、強みが埋もれてますね」 「いや、でも時間がなくて」 「時間がないときほど、削るところを先に決めたほうが早いです」 そう言って彼女は、俺が悩んでいた言い回しを一つずつ置き換え、要点を太くしていく。コピーの端を揃えるみたいに無駄が消え、さっきまで濁っていた企画書が、みるみる形になっていった。 「……すげえな」 思わず漏れた声に、美桜は小さく肩をすくめる。 「先輩が抱えすぎなんです。もっと早く言ってくれれば、手伝えましたのに」 あっという間に完成した修正版を見下ろしていると、胸の奥にじわっと安堵が広がった。だが、その安堵より先に、妙な気恥ずかしさが顔を出す。助けられた自分が情けないような、でも素直に感謝したいような、落ち着かない気分だ。 「悪い。助かった。ありがとう」 頭を下げると、美桜は口元をやわらかく緩めた。 「どういたしまして」 そこで俺は、もう一度だけ言葉を探す。お礼だけでは足りない気がした。彼女はただの後輩以上に、俺の混乱をほどいてくれている。 「本当に、頼りになるな」 すると美桜は、少しだけ目を細めてから、冗談めかした調子で言った。 「先輩は分かりやすいですね」 「……何がだよ」 「助けてもらったときの顔です。隠してるつもりでも、全部出てます」 軽い笑い声だった。なのに、その言い方が妙に胸に残る。からかわれたというより、見透かされたような気がしたからだ。 「そんなに分かりやすいか」 「ええ。かなり」 美桜は何でもない顔でパソコンに視線を戻す。けれど、横顔だけはどこか楽しげだった。俺が困っているのを、面白がっている。そんな考えが頭をかすめる。 いや、被害妄想だ。 そう否定しようとしても、さっきの一言が妙に引っかかる。先輩は分かりやすいですね。まるで、俺の反応を最初から見ていたみたいな口ぶりだった。 「一真さん」 「ん?」 「次はもう少し、素直に頼ってください」 その言葉に、俺は返事を忘れた。画面の中では整った企画書が静かに光っている。美桜はそれを確認して、さっきより少しだけ近い距離で微笑んだ。俺はようやく気づく。彼女は仕事を助けているだけじゃない。俺の揺れ方まで、どこか楽しんでいるのかもしれない。

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