エラベノベル堂

瓜二つの部下

全年齢

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5章 / 全10

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土曜の午前は、平日のざわつきが嘘みたいに静かだった。人の気配がまばらなフロアに、紙をめくる音だけが小さく響く。俺は休日出勤のために開けた資料室で、古びた企画資料の山を前に腕を組んでいた。 「このへん、昔の案件ですね」 背後から聞こえた声に、肩がわずかに跳ねる。振り返ると、美桜がいつの間にか棚の前に立っていた。休日でも相変わらず整った顔をしているせいで、ここが資料室だという事実まで少し曖昧になる。 「驚かせるなよ」 「すみません。先輩が真剣そうだったので」 そう言って彼女は、俺の手元を覗き込む。目の前に並ぶ写真や企画書の中から、俺はふと一枚の印刷写真に目を留めた。構図の切り取り方、人物の立たせ方、奥行きの作り方。どれも、かつて画面越しに何度も見た、印象に残っている作品を思い出させる。 「……これ」 思わず声が漏れる。似ている、の一言では片づかない。胸の奥にしまっていた記憶の箱が、勝手に開きかける感じだった。 「何か思い出しました?」 美桜がすぐ隣から写真をのぞきこむ。その距離の近さに、また落ち着かなくなる。俺は笑ってごまかそうとした。 「いや、偶然だろ。こういう構図、わりとあるし」 「そうですか」 彼女はそれだけ言って、写真を指先で軽く押さえた。けれど、その目だけが妙に楽しそうだった。いたずらを仕掛けた子どもみたいな、でもどこか余裕のある光。 「こういう場面、苦手ですか」 低い声でもないのに、やけに意味ありげに聞こえる。俺は一瞬、返事を忘れた。苦手かどうかで言えば、苦手に決まっている。だが、それは写真のことじゃない。 「別に、そういうわけじゃない」 「なら、よかったです」 彼女はさらりと答え、また資料をめくり始める。だが俺の視線は、もう写真から離れなかった。偶然だと笑い飛ばしたいのに、あの目がそうさせてくれない。俺の反応を、最初から試していたみたいだ。 「美桜、お前……」 名前を呼んだだけで、彼女は顔を上げる。何も言わない。ただ、ほんの少しだけ首をかしげて、目元にいたずらっぽい光を宿す。 その一瞬で、疑念はまたひとつ濃くなった。俺は写真を持ったまま、次の言葉を飲み込むしかなかった。

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