エラベノベル堂

瓜二つの部下

全年齢

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9章 / 全10

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「先輩は、最後まで見届けたいタイプでしょう」 美桜はそう言って、椅子にもたれたまま、くすりと笑った。仮眠スペースの薄い照明が、彼女の横顔をやわらかく縁取る。俺は机の端に手をつき、ようやく整いはじめた呼吸を意識した。 「……どういう意味だよ」 「そのままです」 「はぐらかすな」 「はぐらかしてませんよ。先輩、気になることがあると、最後まで見ないと落ち着かないでしょう」 図星だった。そう返せないまま黙ると、美桜は少しだけ目を細める。まるで、俺の反応を確かめるためだけに言葉を置いているみたいだった。 「素性を聞いてるんだ」 「素性、ですか」 彼女はわざとらしく首をかしげた。そこで俺の喉が、ひどく乾く。 「本当に、何者なんだ」 「先輩こそ、何者になりたいんです?」 「質問で返すな」 「だって、答えたくないんでしょう」 そう言いながら、美桜は机の上に置かれたペンを指先で転がした。その癖を見た瞬間、胸の奥が跳ねる。引退した女優と、まったく同じだった。画面の中で何度も見た、あの人が笑う前の、ほんのわずかな間。息を吸う間合いまで、ぴたりと重なる。 「……っ」 声にならない息が漏れた。俺は思わず姿勢を正す。 「今の」 「今の、何ですか」 「その癖」 「癖?」 「ペン、回すの」 美桜は動きを止め、それから何でもない顔でペンを戻した。 「たまたまです」 「たまたま、で済むかよ」 「先輩、すぐ決めつけますね」 「決めつけたいんじゃない。確かめたいんだ」 言った瞬間、自分の声が思った以上に強くて、俺は少しだけ驚いた。美桜は黙る。笑っているのに、笑っていない目だった。 「確かめたら、どうするんです」 「……」 答えが出ない。否定されても困る。肯定されても、もっと困る。そんな中途半端な自分を見透かしたみたいに、美桜は小さく息を吐いた。 「ほら、やっぱり」 「何がだ」 「最後まで見届けたい顔です」 からかうような声だったのに、どこかやさしかった。その優しさが、かえって俺の混乱を深くする。机の上には片づけ途中の資料が残り、窓の外では夜がまだ重く沈んでいた。 「先輩」 「……何だよ」 「夜は長いですよ」 その一言に、俺は返せない。美桜は立ち上がるでもなく、ただ静かに微笑んだまま、さっきと同じ癖で指先を遊ばせる。真相を掴む前に、言葉だけがまた遠のいていく。

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