エラベノベル堂

瓜二つの部下

18+ NSFW

小説ID: cmplg52r700be01ntstohyaik

6章 / 全10

オフィスの照明は、二人のデスク周りだけが明るく灯っていた。壁の時計が深夜を告げている。正樹は画面の文字を目で追いながら、こめかみを指で揉んだ。隣で陽葵も黙々と作業を続けている。キーボードを打つ音だけが、静寂の中で規則的に響いていた。 「先輩、これ最後のデータです」 陽葵がファイルを差し出した。正樹は手を伸ばし、受け取ろうとした。その瞬間、手元が滑った。卓上に置いてあった他の書類の束が崩れ、バラバラと床へ散らばる。 「あっ、すみません!」 正樹は慌てて椅子を押し退け、身を乗り出した。拾おうと屈み込む。同時に、反対側からも手が伸びてきた。 「手伝います」 陽葵の声。彼女もまた、床に散らばった書類を拾おうと屈み込んできたのだ。顔を上げた正樹の目の前、数センチの距離に陽葵の顔があった。近い。あまりにも近い。彼女の瞳に、天井の照明が小さく映り込んでいる。黒髪がふわりと揺れ、甘い香りが鼻腔をくすぐった。正樹は息を止めた。心臓の音が、静かなオフィスに響き渡るほどに大きく打っている。陽葵もまた、動かなかった。瞬き一つせず、真っ直ぐに正樹を見つめている。その瞳の奥に、何かが揺らいでいるように見えた。 「……先輩」 彼女の唇が微かに動いた。正樹の喉が渇く。この距離。この角度。脳裏に、あの作品の記憶が蘇る。残業シチュエーションの作品で、二人の顔が接近する場面。その時の彼女の表情と、今目の前にある陽葵の表情が、重なり合う。偶然なのか。それとも。正樹は動けなかった。書類を拾う手も、立ち上がることも忘れて、ただ陽葵の瞳を見つめ返すことしかできなかった。

6章 / 全10

TOPへ