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呪われた女魔王

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6章 / 全10

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石台の前に立った瞬間、空気が変わった。冷えた地下の湿り気の奥で、黒ずんだ輪が静かに脈打っている。さっきまで呪具だと思っていたそれは、近づくほど輪郭がほどけ、壁や床の模様へと溶け込んでいった。 「……違う。これ、ただの封印具じゃない」 私が呟くと、背後の魔物たちが一斉に息を呑んだ。 「じゃあ何です?」 「結界、だろうな」 答えたのは私自身でも半信半疑だった。だが、指先に残るざらついた魔力の流れがそう告げている。勇者にかけられた呪いと、この城の奥に沈められていた古い術式は、別々じゃない。どこかで繋がっている。しかも、その線は外敵だけでなく、内側からの裏切りまで含んでいた。 「魔王軍の中に、誰かがいたのか……」 口に出した途端、空気が重くなる。誰も即座には否定しなかった。それが、答えみたいなものだった。 私は歯を食いしばる。勇者だけを恨んでいれば済むと思っていたのに、城そのものがもっと前から軋んでいたなんて。敗北の痛みが、別の痛みと混ざって胸の奥を刺す。 そのときだった。 ぬるり、と影の隙間がほどけるようにして、奇妙なものが現れた。触手のように細長く、半透明で、床を探るみたいにゆらゆら揺れている。 「ひっ」 「な、なんだあれ」 魔物たちがざわめいて後ずさる。私も一歩だけ身構えた。だが、その奇妙な魔物は襲いかかってこない。むしろ、石台の周囲を守るように広がり、切れかけた光の筋を繋ぎ直していく。 「待て……攻撃じゃない」 近くの壁に手を伸ばすと、触手状のものは怯えるように縮んだ。けれど、私が離れるとまた静かに戻る。まるで、封印を維持するために働いているみたいに。 「結界の一部か」 「そんな生き物、見たことありませんよ」 「私だって初めてだ」 けれど、理屈は通る。古い封印が長く歪められ、管理用の反応だけが形を持った。攻撃のためではなく、抑え続けるために生まれた存在。そう考えれば、この不気味な揺れにも筋が通る。 私は息を吐いた。弱い。悔しいほどに、今の私は弱い。だが、だからこそ感情だけで突っ込むわけにはいかない。 「まずは整理する。混乱しているのは私の力じゃない。この状況そのものだ」 言い切ると、魔物たちが少しだけ静かになった。 「整理、ですか」 「そうだ。封印の仕組みも、城の歪みも、この変な連中も、全部だ」 触手のような結界生物は、私の声に反応したのか、今度はゆっくりと揺れて輪を作る。敵意はない。ただ、扱い方を間違えればすぐ壊れる、繊細な仕掛けだとでも言うように。 私はその輪を見つめたまま、肩の力を抜いた。復讐の炎は消えない。けれど、今の私に必要なのは怒りに任せて吠えることじゃない。制御不能なものを一つずつほどくことだ。 「……よし。次は、順番に見ていく」 そう告げると、背後の気配が少しだけ前向きに変わった。まだ驚きは残っている。だが、少なくとも誰も逃げ出してはいない。

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