エラベノベル堂

呪われた女魔王

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7章 / 全10

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朝の光が、崩れた城の中庭にまで白く伸びていた。石畳の割れ目にたまった水がきらりと反射し、昨日までの陰鬱さが少しだけ薄れて見える。私は中央に立ち、腕を組んだまま周囲を見回した。 「集まりなさい。今日は戦うな。動け」 言うと、魔物たちが一斉に顔を上げる。 「動け、ですか」 「はいはい、つまり雑務です?」 「違う。役割分担だ」 誰もすぐには理解しなかった。だから私は、昨日までの混乱を思い返しながら、ひとつずつ指を折っていく。 「壊れた門の確認、通路の掃除、食糧庫の整理、見張り。勝手にやるな。順番にやれ。できる者が得意な場所へ行け」 ざわ、と空気が揺れた。恐怖で従わせる声ではない。けれど、妙に聞き取りやすい。魔力を強く流せない代わりに、言葉の筋道だけははっきり通す。それが今の私にできる指揮だった。 「魔王様、掃除は誰が」 「脚の遅い連中は通路の確認だ。重い物を運べる者は倉庫へ。細かい目が利く者は、壊れた場所を数えろ」 「なるほど……」 「つまり、得意なことをやれと」 「最初からそう言っている」 不満げな声もあったが、動きは早かった。飛べる魔物は高所の瓦礫へ向かい、力自慢は倒れた石柱を端へ寄せる。小柄な連中は隙間のゴミをかき出し、器用な手つきの者は曲がった扉の蝶番を確かめている。 私はその様子を見ながら、胸の奥で妙な感覚が育つのを感じていた。命令ひとつで震え上がらせるほうが簡単だ。だが、今は違う。彼らは私の怒鳴り声ではなく、実務の正しさで動いている。 「魔王様、こちらの石材は再利用できそうです」 「こっちの布はまだ使えます」 「報告しろ。勝手に積むな。場所を決める」 返すたびに、誰かが素直にうなずく。そのたびに、私は少しだけ言葉を選ぶようになっていた。 「左の壁際にまとめろ。あそこは日が入りやすい。乾かすものを置け」 「了解です」 「門の前は空けろ。見張りが動けなくなる」 「さすが魔王様、使い方が違いますね」 「褒めるなら手を止めるな」 言いながら、私は崩れた段差を見つけて一歩踏み出した。足元が不安定だ。けれど、誰かがすぐ横に回り込んで支える。 「おっと」 「余計な気遣いは要らない」 「いえ、今のは事故防止です」 その返事に、思わず息が漏れた。笑ったわけではない。だが、昨日までの冷たい視線とは明らかに違う。 復讐のために集めたはずの力は、いつの間にか城を建て直すために回っていた。悔しい。けれど、否定しきれない。 「……よし。次は東側だ。そこから先を空けろ」 「承知しました」 魔物たちが動き出す。私は中庭の真ん中に立ったまま、その流れを見送った。まだ城は完全じゃない。私も、まだ魔王らしくない。なのに、指示ひとつで空気が整っていく。 その事実が、どうしようもなく心地よかった。

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