エラベノベル堂

呪われた女魔王

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8章 / 全10

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午後の光が、魔王城の門前の石畳を白く照らしていた。ついさっきまで中庭で動いていた魔物たちの足音が、今は門の内側へ、外側へ、短く鋭く飛び交っている。私は城門の影に立ち、指先で冷えた石をなぞった。 「来たわね」 遠目にも分かる。人影が三つ、慎重に間合いを測りながら近づいてくる。勇者一行の偵察。正面切って挑むための布石だ。胸の奥で、敗北の記憶が鈍く疼く。 「魔王様、予定どおりで?」 背後から低い声がした。振り返ると、魔物たちはもう配置についている。門の上、脇の崩れた塔、見通しの悪い段差。昨日までなら好き勝手に騒いでいた連中が、今は私のひと声を待っていた。 「ええ。真正面から迎え撃つ必要はない。足並みを崩すだけでいい」 「つまり?」 「囮を出す。相手を見失わせる。私の合図で、左右から押し返す」 言いながら、私は門の脇に積まれた布を見た。修繕用の目隠し布だ。誰かが昨夜のうちに、わざわざ使いやすい位置へ運んでくれている。 「準備はできてる?」 「いつでも」 「魔王様の指示なら、今回は迷いません」 その言葉に、少しだけ喉が詰まった。私は感情を押し殺し、門の外へ視線を投げる。 偵察の先頭が立ち止まった。 「……気配が変だ」 勇者ではない、若い声。だが、剣を握る手は慣れている。次の瞬間、私は布を一枚、門の前へ滑らせるように落とした。風に煽られたそれが視界を遮る。 「今!」 合図と同時に、左右の影から魔物たちが飛び出した。正面からは見えない角度で、足元の石を転がし、埃を巻き上げ、わざと派手な音を立てる。偵察の一人が反射的にそちらへ視線を向けた隙に、別の魔物が背後へ回る。 「数が多い!」 「落ち着け、散るな!」 いい判断だ、と私は思った。だが、散るなと言われた時点で遅い。 「右、下がれ。左は引きつけて」 私の声に合わせ、配置していた連中が一斉に動く。門の脇で待機していた小柄な魔物が、石段の陰から不意に現れて偵察の進路を塞ぎ、逆に大柄な魔物が遠回りさせるように圧をかける。私は前へ出ず、視線と声だけで戦場の形を変えていく。 「これが、魔王?」 門の向こうで、偵察の一人が小さく呟いたのが聞こえた。私は口角を引き上げる。 「そうよ。見た目で判断するなら、痛い目を見るわ」 嘲るつもりだった。けれど、次の瞬間、向こうの先頭が私をまっすぐ見た。 「……違う。あの動かし方、前と別人だ」 息が止まる。勇者ではない。だが、たしかに伝わったのだ。私がただ力を振り回すだけの魔王ではなくなったことが。 門前の空気が、わずかに変わった。魔物たちの連携は乱れない。むしろ、私の指示が通るたびに、さらに噛み合っていく。 「魔王様、次は?」 「そのまま押さえろ。深追いはしない」 「了解」 私は静かに息を吐いた。復讐の機会は目の前にあるのに、今この場で示しているのは怒りよりも統率だ。予想外だ。悔しいほどに、これが一番効いている。 偵察たちはなおも門の前で様子をうかがっていた。私は布の端を踏み、揺れる影の向こうから逃げ道を塞ぐように視線を送る。 「帰りなさい。次は、もう少し骨のある相手を連れてくることね」 その言葉に、向こうの誰かが息をのんだ。勇者側に、私の変化は確かに届いてしまった。

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