エラベノベル堂

呪われた女魔王

18+ NSFW

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2章 / 全10

路地裏の湿った石畳に、リオンは突っ伏していた。頭が重い。体が軽い。何かが決定的に違和感がある。 「ここは……」 呟いた声が、予想以上に高く、澄んでいることに驚く。ゆっくりと上体を起こし、自分の手を見つめた。細く、白く、力がない。 「嘘でしょう……」 近くの店舗の裏口に立てかけられた鏡に、おそるおそる近づく。映ったのは、見知らぬ少女の顔だった。黒髪はストレートで腰まで伸び、整った顔立ちは以前と変わらないが、その幼さと可愛らしさは魔王の威厳を完全に欠いていた。 「これが……私?」 自分の頬に触れる。冷たい指先が、信じがたい現実を突きつける。魔王として纏っていた漆黒の衣装は、今の体には大きすぎて、肩から滑り落ちそうだ。オーラも威圧感も、何一つ感じられない。 「あの男……ユート、覚えてなさい」 怒りを込めて睨むが、鏡の中の少女は愛嬌すら漂わせている。可愛らしく見上げる瞳には、かつての殺気など微塵もなかった。 「ほぅ、お目覚めですか、リオン様」 背後から聞き覚えのある声が響く。振り返ると、白髪の初老の男性が立っていた。古くから魔王城に仕える執事だ。 「クロード……! あなた、私がわかるのね」 「もちろんでございます。どのような姿になろうとも、我が主は我が主」 クロードと呼ばれた執事は、しかし深い溜息をついた。その視線は、困惑と呆れを浮かべている。 「ですが……なんと申し上げましょうか。威厳もオーラも、まるで感じられませんな。人間の街を歩いていても、誰も振り返らぬでしょう」 「何ですって! 私は魔王リオン! かつて世界を恐怖に陥れた最強の存在よ!」 リオンは胸を張ろうとしたが、今の体では威圧感など生まれない。むしろ、堂々と立とうとする姿が滑稽ですらあった。魔王の衣装をまとっても、それは子供が着ているような不格好さで、威厳など皆無だ。 「はぁ……まあいいわ。とにかく、魔王城に戻るわ。兵を集め、再び軍を組織し、ユートへの復讐を!」 「リオン様、その姿では城の門番すら通せませんぞ。魔物たちは主人の命令に従わぬでしょう」 「なっ……そんな馬鹿な」 「現在のあなたには、魔力がありません。ただの人間の娘と変わらぬのです」 クロードの言葉が、重くのしかかる。リオンは唇を噛みしめた。 「……ふん、仕方ないわね。一時的な姿よ。魔力が戻れば、また私は最強の魔王に戻れるのだから」 「ええ、そう願っております。とりあえず、街はずれまでお送りします。そこからは徒歩で城へ向かいましょう」 クロードは呆れながらも、彼女を保護するように立ち上がった。リオンは小さな拳を握りしめ、暗い路地裏の出口へと歩き出した。 「覚えておきなさい、ユート……この屈辱、必ず晴らしてやるわ」 その背中は、かつての魔王の面影をどこにも残していなかった。

2章 / 全10

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