健太は空になった紙コップを握りしめたまま、遥香の横顔を見つめていた。窓ガラスに映る彼女の姿が、夜の闇に溶け込みそうになっている。 「一人じゃなかったから」 ——その言葉が、胸の奥で反響し続けていた。ふと、健太は違和感を覚えた。遥香の輪郭が、ぼんやりと滲んで見えるのだ。最初は疲れのせいかと思った。しかし、瞬きをしても、目をこすっても、その現象は消えない。それどころか、彼女の周囲に淡い光が漂い始めていた。 「……遥香」 健太が彼女の名を呼ぶと、遥香は驚いたように顔を向けた。 「何?」 その瞬間、健太の目に鮮やかな色が飛び込んできた。彼女の身体を取り巻くように、青い光が揺らめいている。冷たく、鋭利で、どこか研ぎ澄まされた青。それは彼女の中にあるライバル心の色だと、健太は直感的に理解した。 「どうしたのよ、人の顔じろじろ見て」 遥香が不審そうに眉をひそめる。 「いや、何でもない」 健太は動揺を隠そうとしたが、視線を逸らすことができなかった。青い光の奥に、もう一つの色が見えた。濁った灰色。重く、寂しい色だ。それが彼女の胸のあたりで淀んでいる。 「……ただ、君が珍しく本音を言ったから、少し驚いただけだ」 「本音? 何のこと?」 遥香の声が鋭くなる。青い光が一瞬強まり、そして灰色が深く揺らいだ。健太は自分の目に何が起きているのか理解できなかった。だが、この色たちが彼女の隠された感情を映し出していることだけは確かだった。ライバルとしての誇りと、一人で戦う孤独。その二つが彼女の中でせめぎ合っている。 「遥香、君は——」 言葉が詰まる。何を言おうとしているのか、自分でもわからなかった。ただ、この色彩から目が離せなかった。美しく、同時に痛ましい光景だった。遥香が立ち上がり、窓の方へ歩く。彼女の動きに合わせて、青と灰色の光がゆらりと揺れた。 「休憩は終わりよ。仕上げにかかるわ」 背を向けた彼女の声は、いつもの鋭さを取り戻していた。だが、健太には見えていた。彼女の肩を包む灰色の光が、わずかに震えていることを。
ライバルは今夜、隣に座る
18+ NSFW小説ID: cmpr5p4ku004f01pq52ms2tut










