エラベノベル堂

シェアドリーム

全年齢

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8章 / 全10

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「……ん」 低い声が、雨音の間からこぼれた。まどかは肩を震わせ、慌てて顔を上げる。ベッドの上で健人が薄く目を開け、次に見えたものを信じられないとでもいうように、ゆっくり瞬きをした。 「起きた……?」 問いかけるまどかの声は、自分でも驚くほどかすれていた。健人はすぐには起き上がらない。ただ、まどかを見つめたまま、眉のあたりをわずかに動かす。 「……誰」 その一言に、まどかの喉が詰まった。侵入者だと思われて当然だ。そうわかっていても、胸の奥に走る痛みは隠せない。 「ごめん。私、部屋を間違えて……」 「間違えた?」 「鍵が、似てて。ううん、たぶん私が取り違えたんだと思う」 健人は上体を起こし、ベッドの縁に手をついた。寝起きのぼんやりした目が、ようやくまどかの顔を捉える。その瞬間、さっきまで曖昧だった表情が変わった。 「……まどか」 名前を呼ばれて、今度はまどかのほうが固まる。 「え」 「いや、違うかもしれないけど。前に廊下で会った」 健人は言葉を探すように一度視線を逸らし、それから真っ直ぐ戻した。 「それに、夢でも会ってる気がする」 まどかの胸が大きく跳ねた。健人もまた、同じ場所にいたのだとわかる。あの揺れる空間、手のひらの温度、言葉にしなくても通じる感覚。全部が、急に現実の机の上に並べられたみたいだった。 「私も、ずっと変だと思ってた」 「変?」 「知らないはずなのに、見たことがある気がして。廊下ですれ違った時も、昨日ここに来た時も、全部」 健人は短く息を吐いた。笑ったのか、困ったのか、判断のつかない顔で。 「俺もだ。目が覚めたら、部屋に知らない人がいてさ。普通なら怖いのに、なぜか夢の続きみたいだった」 「怖かった?」 「少し。でも、それより先に、知ってる気がした」 まどかは、言葉のひとつひとつが胸の奥に落ちていくのを感じた。自分だけが感じていたわけじゃない。それだけで、足元が少し安定する。 「じゃあ、やっぱり……」 「うん。隣の部屋の人、だったんだろうな」 その言い方があまりに自然で、まどかは思わず笑ってしまう。緊張の糸が少しだけゆるみ、涙になりかけたものが、笑いに変わった。 「遅すぎるね」 「ほんとに」 健人も小さく笑う。窓の雨はまだ止まない。薄いカーテンの向こうで光が滲み、部屋の輪郭をやわらかくしている。 まどかは、自分の胸の前で両手を握った。 「夢の中で、なんであんなに自然に話せたのか、やっとわかった気がする」 健人は、その言葉にゆっくりうなずく。 「俺も。たぶん、最初から知ってたんだ」 言い切るにはまだ早いはずなのに、その確かさだけが妙に胸に残った。二人はしばらく黙って、互いの顔を見ていた。壁一枚でしか繋がっていなかった距離が、今はもう嘘みたいに近い。けれど、まだ確かめるべきことが残っている。まどかは小さく息を吸い、次の言葉を探した。

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