エラベノベル堂

シェアドリーム

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ドキドキすぷりんぐ(単話)

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8章 / 全10

まどかは仕切りの枠に指をかけたまま、動けずにいた。目の前で眠る男性は、紛れもなく夢の中で出会っていた健人だ。薄暗い寝室に、雨音だけが響いている。まどかの心臓は早鐘を打っていた。どうしていいか分からない。謝って部屋を出るべきだろうか。それとも、彼が目を覚ますのを待つべきだろうか。迷っているうちに、健人のまぶたが薄く震えた。 「……ん」 寝息が変わり、彼がゆっくりと目を開ける。ぼんやりとした視線が天井を彷徨い、それから横へと向けられた。まどかと目が合う。数秒の沈黙。健人の瞳孔が開いた。 「……え」 彼は慌てて上半身を起こした。シーツが滑り落ち、驚きに満ちた顔がまどかを凝視する。 「君、誰? ていうか、どうやって」 声は警戒心と混乱に満ちていた。当然だ。見知らぬ女性が自分の寝室に立っているのだから。まどかは息を詰めた。説明しなければならない。鍵を間違えたこと、部屋が似ていたこと、無断で入ってしまったこと。言葉を探そうとしたけれど、喉が張り付いてうまく音が出ない。 「あの、私、隣の部屋の者で」 「隣?」 健人は眉を寄せた。その表情にはまだ警戒心がある。けれど、同時に何かを探るような色も浮かんでいた。彼の視線がまどかの顔をじっと見つめる。整った眉、黒い瞳、少しぼさぼさの髪が前髪に掛かっている。夢の中で何度も見てきた顔が、今は現実の目の前にある。 「……待って」 健人の声が低くなった。何かを確信しかけているような、戸惑いのような、不思議な響き。 「君、まどかちゃん……?」 名前を呼ばれた瞬間、まどかの背筋に震えが走った。夢で呼ばれた名前。現実で呼ばれるはずのない名前。なぜ彼が知っているのか。いや、理由は一つしかない。彼もまた、夢を覚えているのだ。 「……もしかして、昨夜の人?」 まどかが問いかけると、健人の瞳が揺れた。雨音が窓を叩く音だけが、二人の間に流れている。落ち着いた瞳がまどかの瞳を見つめ返す。互いに確信していた。これは偶然ではない。夢で交わした言葉も、手を繋いだ温もりも、すべてが現実と繋がっていたのだ。 「本当に……」 健人が息を呑む。 「夢じゃ、なかったんだな」 まどかは小さく頷いた。言葉が見つからない。ただ、胸の奥が熱くなっていくのを感じていた。隣室に住む見知らぬ隣人が、夢の中で出会っていた彼だった。薄い壁一枚隔てた向こう側に、ずっと彼がいたのだ。 「健人くん」 名前を呼ぶと、彼は少しだけ目を細めた。困惑と、驚きと、それでも隠せない安堵のようなものが入り混じった表情。 「まどかちゃん」 彼が名前を返す。低くて落ち着いた声は、夢の中で聞いたものと同じだった。けれど、今の声には確かな熱が宿っている。二人の視線が絡み合い、離れられなくなっていた。

8章 / 全10

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