エラベノベル堂

記憶を染める和紙

18+ NSFW

小説ID: cmpujb8kt005v01pqhmnmqog3

3章 / 全10

陸と一緒に店の片付けを始めてから、数日が過ぎた。午後の日差しが蔵の小窓から斜めに差し込み、舞う埃を黄金色に染めている。結は整理された棚の奥へと足を踏み入れた。古い紙の匂いが、鼻腔をくすぐる。 「陸くん、こっちどうなってる?」 「ん、今そっち行く」 陸の声が広い蔵の中に反響する。結は埃を被った木箱の前にしゃがみ込んだ。慎重に蓋を開けると、古い書簡や帳簿、色あせた封筒が雑多に収められていた。どれも百年近く前のものだろう。 「……これ、何だろう」 箱の一番底に、一冊の古びた日記が眠っていた。茶色く変色した革表紙は、角が擦り切れ、歳月の痕跡を色濃く残している。表紙には何も書かれていなかった。ただの無地の表紙。それが逆に、不気味でもあり、魅惑的でもあった。 結はそれを手に取ろうとして、ふと動きを止めた。 (……変な感じ) 指先が、微かに震えている。まるで見えない糸に引かれるような、抗いがたい引力を感じた。心臓の鼓動が少しだけ速くなる。 「結ちゃん、何か見つけた?」 陸の足音が近づいてくる。 「うん……日記みたい。でも表紙に何も書いてないんだ」 「見せてみろよ」 結は日記を胸に抱いたまま、首を横に振った。なぜか、これだけは自分で開かなければならないという気がした。理屈ではない。直感的な、確信めいた予感。 「……私が見る」 その言葉の響きに、陸は少し驚いたようだった。けれど、彼は優しく微笑んだ。 「わかった。じゃあ、俺はこっち続けるな」 彼は背を向け、別の棚へと向かった。結は再び日記に視線を落とす。手のひらが汗ばんでいる。喉が少し渇いた。 (ただの日記だよね。百年前の恋文だって、大丈夫だったし) 自分に言い聞かせながら、表紙に指を這わせる。ざらりとした感触。古い革の匂い。そして、胸の奥がざわめくような予感。指先が、最初のページの端にかかる。 結は恐る恐る、ページをめくった。

3章 / 全10

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