エラベノベル堂

異世界ドリンク

全年齢

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3章 / 全10

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朝の光は、宿の食堂に入っただけで少し白く眩しかった。真斗は椅子に腰を下ろしたまま、昨夜の記憶をつかもうとして眉間に皺を寄せる。どこまでが現実で、どこからが夢だったのか、輪郭が曖昧すぎる。けれど、視線だけはやけに覚えていた。湊大は向かいで静かに座り、陸玖は箸をくるくる回し、章仁は黙って湯気の立つ椀を真斗の前へ押し出している。そのどれもが、妙に近い。 「……何ですか、その顔は」 真斗が言うと、陸玖が肩を揺らした。 「別に? 普通に朝飯食べてるだけだよ」 「普通、ではない気がしますが」 「気のせいだろ」 章仁はぶっきらぼうに言って、それ以上は何も足さない。だがその無骨さが、昨夜よりずっと優しかった。 女将が奥から現れ、卓を見回してにこりと笑う。 「あらあら、皆さんおそろいで。昨夜はよく眠れましたか」 その言い方に、真斗は一瞬だけ箸を止めた。まるで何かを知っている顔だ。問い詰めたいのに、口を開けば自分が余計に追い詰められそうで、喉の奥がむずかしい。 「……ええ、まあ」 曖昧に返すと、女将はさらに意味ありげに笑った。 「それはそれは。朝はしっかり食べないと、力が出ませんからね」 真斗は椀の湯気を見つめたまま、昨夜の自分を必死で思い返す。ふらついたこと、頬が熱かったこと、三人に支えられたこと。そこへ至るほど、何かを言いかけた気もするのに、肝心の言葉だけが霧の向こうだ。 「真斗さん、食べないとまた倒れますよ」 湊大の声は穏やかで、茶化す気配がない。 「……倒れません」 「そういうところだよ」 陸玖が笑ったが、その笑いにも悪意はない。むしろ、崩れかけた場をそっと受け止めるみたいだった。 真斗は箸を取り、味噌の香りをひとつ吸い込む。熱いのに、妙に落ち着く。 「……昨夜のこと、何か変なことは」 言いかけて、やめる。聞いてしまえば、答え次第で自分の立場が決まりそうだった。 章仁が短く息を吐く。 「変なことなら、最初から最後まであった。だが、気にするな」 「気にするな、で済む内容ですか」 「済む」 断言が早すぎて、逆に怪しい。だが、そのぶっきらぼうな一言に、真斗はわずかに肩の力を抜いた。 湊大が静かに言う。 「無理に思い出さなくていい。今は飯を食べて、落ち着けばいい」 その言葉で、真斗はようやく箸を進めた。食堂のざわめきはいつも通りなのに、三人の距離だけが少しだけ近い。からかわれないことが、こんなにも不思議で、こんなにも落ち着かないとは思わなかった。 女将は満足そうに目を細め、真斗の反応を楽しむように湯気の向こうへ去っていく。 真斗は椀を持ち直し、こわばっていた指先が少しずつ温まるのを感じた。警戒はまだ消えない。けれど、昨夜の不安とは違う。これは、逃げるより先に確かめたくなる戸惑いだった。

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