エラベノベル堂

異世界ドリンク

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8章 / 全10

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真斗は縁側の端に腰を下ろし、夜気に冷えた木の感触を掌で確かめた。騒ぎの後始末が終わったあとで、ようやくひとりになれたはずなのに、胸の奥だけは妙に落ち着かなかった。空を見上げれば、雲間に月が浮かんでいる。あまりに澄んだ光が、さっきまでの気まずさまで白々しく照らし出してくるようだった。 「……なんなんだ、ほんとに」 独り言は、風に溶ける。支えられた腕の記憶も、言いかけて飲み込んだ本音も、まだ肌の裏に残っていた。真斗は額を押さえ、ため息をつく。剣を振るより厄介な相手が、今夜はやけに多い。 「一人でそんな顔してると、月にまで怒られるよ」 先に現れたのは陸玖だった。足音をわざと軽くして、真斗の隣に座る。 「驚かせないでください」 「驚いてくれるなら本望だね」 「性格が悪いです」 「褒め言葉として受け取っとく」 陸玖はそう言って笑ったが、笑いの奥はいつもより静かだった。 少し間を置いて、湊大が縁側の角から姿を見せる。まっすぐ立ったまま、真斗を見て、それから短く息を吐いた。 「ひとりにするつもりはなかった。だが、先に言う」 「……何をです」 「俺は、お前のことが好きだ」 真斗の肩が跳ねる。あまりに真正面すぎて、逃げる準備すら間に合わない。 続けて章仁が現れた。こちらは何も飾らず、ただ真斗の前で足を止める。 「俺もだ。言っておく」 「ちょ、待ってください。順番、というか、心の準備が」 「ないだろうなと思った」 「だったら言い方を考えてください」 「考えた」 即答に、陸玖が吹き出す。 「真面目なんだか雑なんだか、ほんとに分かんないな」 「うるさい」 章仁が低く返す。湊大は相変わらず真っ直ぐで、逃げ道を塞ぐように立っているのに、誰も答えを迫ってこない。その誠実さが、逆に真斗の胸をひどく熱くした。 「……あなたたち」 言葉が続かず、真斗は思わず笑ってしまう。困るほど正直で、笑うしかないほどまっすぐだ。悔しいのに、少しだけ嬉しい。その混ざり方が、自分でもわからなくて、余計におかしかった。 「笑うところだったか?」 湊大が少しだけ首を傾げる。 「違います。違うんですけど……」 そこへ、どこからともなく女将の声が飛んできた。 「あらあら、夜更けに若い子たちが縁側で真剣な顔。月もびっくりしちゃいますねえ」 「女将さん、見てたんですか」 真斗が顔を上げると、廊下の向こうで女将が扇子をぱたぱたさせていた。 「見てませんよ。聞こえただけです」 「それ、ほぼ見てるのと同じでは」 陸玖が突っ込むと、女将は楽しそうに笑う。 「若いっていいですねえ。続きは朝にでもどうぞ」 「続きはありません!」 真斗が即座に叫んだせいで、今度は三人まで笑いをこらえきれなくなった。気まずさは一度、完全に壊れる。だが壊れたはずの空気は、さっきより少しだけ柔らかい。 真斗は顔を伏せ、肩を震わせた。 「……ほんと、ずるい」 その一言に、陸玖がにやりとする。 「で、誰が一番ずるかった?」 「全員です」 「満点回答」 湊大が小さく笑う。章仁は黙ったままだが、耳が少し赤い。 真斗は月を見上げ直した。胸の熱は消えない。けれど、逃げ出したいほどではもうなかった。むしろ、この騒がしい誠実さの中にいる自分が、少しだけ嫌ではない。 縁側には、まだ誰も答えを求めない静けさが残っていた。

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