夕方の空気は昼よりもやわらかく、ガラス越しに差す光がテーブルの木目を淡く浮かせていた。澪は湊大の向かいに座り、冷めかけたカフェラテのカップを指先で包む。 「で、正攻法って、結局なにから始めればいいの」 湊大はストローを外しながら笑った。 「まずは地図を作ること。何がある場所なのか、誰が来ても分かるようにする。検索って、気合いより案内板なんだよ」 「案内板……」 「作品名だけ並べても、初めての人は迷う。紹介文もカテゴリも、読み手が辿れる形にしないと」 澪は昨日から見直していたメモを思い出した。なんとなく整えたつもりだったが、まだ足りないのかもしれない。 「でも、もっと早く目立たせる方法ってないのかな。派手な宣伝とか、そういうの」 その問いに、湊大は少しだけ眉を上げた。 「あるにはある。でも、怪しい近道はやめとけ。すぐ増えるように見えるものほど、土台を壊すことが多い」 「土台……」 「信用だよ。検索に強いサイトって、結局は中身が見えやすい。更新が続いてて、説明がちゃんとしてて、読んだ人が迷わない。そういう積み重ねが強い」 澪は黙って湊大の言葉を聞いた。焦って何かを足すより、今あるものをちゃんと見せる方が近いのかもしれない。 「私は、早く結果がほしかっただけなのかな」 「それは普通だろ。けど、急ぐあまり変なものに頼ると、あとで戻すのが大変だ」 湊大はカップを置き、少しだけ声を落とした。 「信頼って、目立つことより時間がかかる。だけど、一回できると強い」 澪は窓の外を見た。通りを歩く人たちの流れが、夕方の色に溶けていく。自分のサイトも、すぐに賑わうわけではない。でも、迷わず入れる形にしておけば、誰かが立ち寄るかもしれない。 「……焦るより、積む方が近道、か」 「そうそう」 湊大は軽く頷いた。 「地味でも、ちゃんと読まれる場所は強い。広告みたいな声の大きさじゃなくて、続いてること自体が信用になるから」 澪は小さく息を吐いた。胸の中で急いていたものが、少し静かになる。 「ありがとう。なんか、すごく遠回りしてる気がしてたけど」 「遠回りじゃなくて、作り直してる途中だろ」 その言い方が妙にしっくりきて、澪は思わず笑った。カップの中の氷がかすかに鳴る。窓の外では、街灯が一つ、早めに灯り始めていた。
積み上げる読者
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