エラベノベル堂

物語へ導く紹介文

全年齢

小説ID: cmqu0uol10lzb01p6pdki5ozh

5章 / 全10

由奈は机に置いたメモを指先でそっと揃えた。夜の部屋は静かで、外の車の音だけが遠くを流れていく。昼間に組み上げた紹介文の下書きが、画面の中で淡く光っていた。読み返すほど、どの言葉を前に出し、どの言葉を引くべきかが見えてくる。 「見出しは、もう少しやわらかくていいな……」 由奈は独りごとのように言い、文章を一行ずつ整えた。作品名はそのまま残す。説明は短く、でも入口だと分かる程度に補う。導線は自然に、押しつけずに置く。検索に強い言葉は必要だが、目立たせるためだけの硬さはいらない。彼女は改行の位置を変え、読み手が迷わない流れへ組み直していく。 「ここで一度、説明を挟んで……このあとに、案内をつなぐ」 そう言って保存しかけたときだった。メモの端に、昼には見覚えのなかった短い走り書きがあるのに気づく。紙の下に隠れていた細い文字。さっきまで触っていたつもりのない場所から、ひょっこり顔を出していた。 由奈は目を細めた。 「え、なにこれ」 そこには、依頼文の裏に回るようにして書かれた一文があった。物語を広めたい。けれど、ただ待っているだけでは届かない。だから協力してくれる人を探している。そんな意味の、淡い筆跡のメモだった。誰が書いたのかは分からない。ただ、宣伝の体裁を借りた登録依頼の背後に、もっと切実な意図があるのだけは伝わってくる。 由奈は息を止めたまま、その文字を見つめた。 「これ、普通の案内じゃない……」 驚きはしたが、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ、ここまで丁寧に入口を整えようとする理由が、少しだけ見えた気がした。誰かが物語を広めるために、目立たない場所で手を貸す人を探していたのだ。見つけてもらう工夫を、作品の外側から積み重ねるために。 由奈は背もたれに寄りかかり、画面とメモを見比べた。見出し、説明、導線。その三つをつなぐだけで終わるはずだった作業が、いつのまにか別の輪郭を持ちはじめている。 「……まずは、このメモを前提にもう一回組み直すか」 彼女はそうつぶやき、ペンを持ち直した。

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