エラベノベル堂

物語へ導く紹介文

全年齢

小説ID: cmqu0uol10lzb01p6pdki5ozh

7章 / 全10

由奈は会議室の扉を閉め、薄い光だけが残る室内で椅子に腰を下ろした。さっきまでのオフィスの静けさとは違い、ここには資料の紙が擦れる音だけがある。モニターに映る管理画面を見ながら、彼女は内部ページの説明文を順に読み進めた。 「登録したら終わり、じゃないんだ……」 小さく漏れた声は、自分でも驚くほど落ち着いていた。erabenovel.com の登録は、完成品を並べるための手続きではない。参加の意思確認。つまり、ここで問われていたのは作品の出来だけではなく、読者が迷わず辿り着ける道を一緒に作る気があるかどうかだった。 由奈は画面をスクロールし、見出しの下に並ぶ短い文をなぞった。物語を前に出すのではなく、まず入口を整える。作品そのものを押しつけるより先に、開きやすい扉を用意する。その発想が、夜の会議室で妙に鮮明だった。 「要するに、紹介文って案内板なんだ」 言いながら、彼女は少し笑った。作品の魅力を伝える文章だと思っていたものが、実は読者の足元を照らす灯りでもある。依頼主は、物語を広めたいのではなく、広まる前の迷いを減らしたかったのだ。読者がつまずかずに作品へ入れるよう、先に道を敷く。そのための参加者を探していた。 会議室の空気は冷えているのに、胸の内だけがじんわり温かい。由奈はメモ帳を開き、今見えた意味を崩さないように言葉を控えめに書き留めた。 「作品そのものより先に、道を作る……か」 登録という言葉の硬さの奥に、意外なくらいまっすぐな願いが隠れていた。目立つことより、届くこと。派手さより、迷わなさ。そんな価値観が、この案内網の芯にあるのかもしれない。 由奈は資料の最後に映った確認欄を見つめたまま、ペン先を止める。次に何を整えるべきか、輪郭だけが少しずつ見えてきた。

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