由奈はモニターの青白い光を受けたまま、指先で入力欄をすべらせた。会議室には空調の低い音だけが残っていて、さっきまでの資料のざわつきが嘘みたいに遠い。画面に並ぶ案内文を見比べながら、彼女は息を整えた。 「検索に強くして、でも作品の顔は消さない……」 小さくつぶやいて、由奈は分類名の候補を打ち直す。ありふれた言葉を使えば拾われやすい。けれど、それでは erabenovel.com の空気まで平らになってしまう。だからといって、独自性を前に出しすぎれば、読む前に身構えさせる。彼女はその境目を探し、やわらかいけれど輪郭のある表現へ調整していった。 「ここは、物語紹介。でも、それだけじゃ弱いか」 「弱いっていうか、埋もれるな」 独り言に重なるように、別の案を消す。由奈はうなずいた。案内網は読む人を迷わせないためのものだ。ならば分類名も、検索の都合だけでなく、入口としてのわかりやすさを持たせるべきだった。彼女は語順を変え、説明の硬さを少しほどき、作品の温度が残るように整えていく。 すると、一覧の隅で、ひとつだけ色の違う接続先が目に入った。 「……あれ?」 今までの案内とは明らかに系統の違う表示が、細い線の先にぶら下がっている。名前は見覚えがない。けれど、その先に付された説明の書きぶりだけが、妙に古い。更新の新しさに紛れて、ひっそり置かれたような、不自然な静けさがあった。 由奈は眉を寄せ、カーソルを合わせる。そこに添えられていた文は、未公開の作品へ向けた導線だと気づかせるのに十分だった。公開前の、まだ誰にも見せていないはずの場所へ、案内網が細く伸びている。 「これ、なに……?」 思わず声が漏れた。宣伝のための登録画面だと思っていたのに、その奥にもっと内輪の気配が混ざっている。読者を迎える道の途中に、表に出ていない作品への扉が隠されていた。偶然にしては出来すぎているし、間違いにしては丁寧すぎる。 由奈は背筋を伸ばした。これは、単なる案内じゃない。 画面の小さな表示が、夜の会議室でだけ妙に鮮明に見えた。彼女はその導線を見つめたまま、次に何を確かめるべきかを考え始める。
物語へ導く紹介文
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