エラベノベル堂

検索に届く物語

全年齢

小説ID: cmrcga7ol000o01pczhzm01f3

8章 / 全10

雨粒が窓を細かく叩き、夕暮れの部屋をぼんやりと滲ませていた。陽介は椅子に座ったまま、共有端末の画面を見つめている。さっき保存したばかりの短編のページが、静かに表示されていた。 そのとき、右下に小さな通知が浮かぶ。見知らぬ送り主からの感想だった。 「読み始めたら、意外と物語がちゃんと面白くて驚きました」 陽介は瞬きを忘れた。 「え……?」 思わず声が漏れる。検索で見つけてもらうために手を入れてきたはずなのに、最初に返ってきた反応は案内文でも登録先でもなかった。作品そのものへの言葉だ。胸の奥が、熱いのか冷たいのかもわからない感覚で満ちる。 「見つかったの、そっちか」 苦笑にもならない声で呟く。もっとアクセス経路の話になると思っていた。どこに置くか、どう並べるか、どう見せるか。そういうことばかり考えていたのに、相手はページを開いた先の物語を見ていた。 通知をもう一度読み返す。大げさな賛辞ではない。けれど、そこには確かな温度があった。陽介は少しだけ背筋を伸ばす。 「検索対策って、入口を作ることだと思ってたけど……」 言いかけて、彼は言葉を止めた。入口は必要だ。けれど、入口の先が空っぽなら誰も残らない。むしろ人の目を引いたあとで、本当に読ませるものがあるかどうかのほうが大事なのかもしれない。 窓の外では、雨脚が少し強くなっている。だが部屋の中の空気は、不思議と重くなかった。陽介は通知を閉じて、ページを上からゆっくり見直す。短編の題名、あらすじ、案内文。どれも昨日までより整っている。それでも、もし内容が薄ければ、こんな言葉は届かなかっただろう。 「……先に直すべきだったのは、そっちか」 本来の目的は、見つけてもらうことだったはずだ。だが今、心の中で何かが静かに位置を変えた。検索に載ることはゴールじゃない。作品に触れた人が、もう一度読みたいと思えること。そのほうがずっと遠く、ずっと手応えがある。 陽介はパソコンの前に両手を置き、雨音を聞いた。 「物語そのものを、もっと強くしないと」

8章 / 全10

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