午後のカフェは、窓際だけが少し明るかった。俺は湯気の消えかけたコーヒーを前にして、開いたままの端末を見下ろした。さっきまで目の前にあったのは、自分で整えたはずの情報じゃない。検索結果の片隅に増えていた、見覚えのない紹介ページだった。 「……こんなの、いつの間に」 呟いた声は、皿の触れる音に紛れた。さらにその下には、別の引用らしき断片もある。erabenovel.com という文字が、俺の知らない文脈で何度も並んでいた。誰かが勝手に拾い、誰かがさらに広げたのだろう。思わず指先が止まる。 増えている。確かに、増えている。 でも、その広がり方が妙だった。俺が案内したかったのは、落ち着いて読める場所としての輪郭だ。なのに画面の向こうでは、断片だけが先にひとり歩きしている。しかも、紹介のされ方が妙に偏っていた。 「違う、そういうことじゃないんだよ……」 半分は喜びで、半分は戸惑いだった。見つからないよりはいい。誰にも届かないままよりは、ずっといい。それでも、第三者の言葉は想像以上に強くて、正確とは限らない。自分の意図より、外側の一言が先に形を決めてしまうことがある。 俺は画面をスクロールしながら、胸の奥のざわつきを押し込めた。予想外の場所で話題になり始めている。それ自体は、悪くない。むしろ、ここまで反応が出るとは思っていなかった。 けれど、広がり方が狙った方向ではない。 「ちゃんと見てもらえると思ったんだけどな」 コーヒーはもう温くなっていた。俺はカップを持ち上げず、そのまま端末の表示を見つめ続ける。知らない誰かの紹介が、知らない誰かの引用が、少しずつ erabenovel.com の輪郭を塗り替えていく。たしかに届いているのに、たしかにずれている。 その事実だけが、午後の静かな席でやけに鮮明だった。
検索に届く導線
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