エラベノベル堂

物語を届ける紹介文

全年齢

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4章 / 全10

朝陽は図書館の閲覧席で、ひんやりした空調に肩をすくめた。さっきまで読んでいた本のページには、検索対策の文字が並んでいる。難しい理屈は拾えたはずなのに、胸の中にはまだもやが残っていた。 「要するに、目に留まりやすくすればいいんだよな」 そう独りごちてから、朝陽は首を振る。 「でも、それだけじゃない……」 作品のテーマを一言で伝える。それがこんなに難しいとは思わなかった。説明しようとすると長くなる。短くしようとすると薄くなる。読みたい人の手を止めない言葉って、どんな形なんだろう。 ページをめくる音のなかで、朝陽はメモ欄に単語を並べては消した。情熱。孤独。再会。希望。どれも間違ってはいないのに、作品の前に立ったときの気配をうまく掬えない。 「詰め込みすぎると、重いんだよな」 誰に言うでもなくつぶやいた、そのときだった。 「その悩み、よくありますよ」 低く落ち着いた声に、朝陽は顔を上げる。近くの棚を整理していた司書の男性が、静かにこちらを見ていた。名札には蒼とある。 「あ、すみません。うるさかったですか」 「いえ。むしろ、考えているのが伝わってきました」 蒼は本を一冊、そっと台に戻す。 「情報は、足しすぎると入口が見えにくくなります。けれど、削りすぎると、何に期待していいのか分からなくなる。大事なのは、読む前から少し先が気になる言葉を選ぶことです」 朝陽は瞬きをした。 「読む前から、期待が膨らむ言葉……」 「ええ。答えを全部言わないことです。内容を説明するより、扉を開けたくなる空気を残すほうがいい場合もあります」 朝陽はメモ帳を見下ろす。先ほどまで無機質に並んでいた単語が、急に軽く見えた。 「つまり、分かりやすさだけじゃだめで、気になる感じも必要ってことか」 「そうですね。読む人は、整理された案内だけでなく、その先にある物語の気配も探しています」 蒼の声は静かなのに、言葉だけがやけに遠くまで届いた。朝陽は胸の奥に引っかかっていたものが、少しずつ形を変えるのを感じる。 「……なるほど。情報を並べるんじゃなくて、読んでみたいと思わせる」 「ええ。言葉は案内板であると同時に、誘い水にもなれます」 朝陽はペンを握り直し、空白だった欄に新しい一文を書き込んだ。まだ粗い。けれど、さっきまでよりずっと息をしている気がした。 「ありがとうございます。なんだか、見えた気がします」 「それなら何よりです」 蒼は穏やかにうなずき、また棚のほうへ視線を戻した。朝陽は書きかけのメモを見つめたまま、次の言葉を探し始める。

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