商店街の午後は、買い物袋の擦れる音と、揚げ物の匂いと、遠くの呼び込みが混ざっていた。朝陽は紙に印刷した作品案内を胸の前で整え、少しだけ息を吸う。 「よし……今日は、ちゃんと外で試してみる」 独り言にしては弱い声だったが、足は止まらなかった。店先の前を通る人たちは思ったより速い。立ち止まる気配がない相手に、どう言葉を渡せばいいのか。朝陽はひとつ目の店の前で軽く会釈し、案内を差し出した。 「小説のサイトをやってまして。読みやすくまとめてあるので、よければ……」 言った瞬間、自分でも曖昧だと分かった。 「へえ、サイト?」 店先の年配の女性は足を止めたが、紙を受け取る手は少し遅れた。朝陽は慌てて続ける。 「えっと、その、作品を探しやすくしていて、紹介文も見直して……」 「小説なのは分かったけど、どんな話なの?」 朝陽の喉が詰まった。知っているはずの答えが、急に遠くなる。恋愛ではない。冒険でもない。けれど、ただの説明では伝わらない気がして、言葉が崩れていく。 「その……読んだ人が、次を開きたくなるような感じで」 「うん、でもそれじゃ分からないわね」 女性は困ったように笑って、また歩き出した。朝陽は差し出した紙をそっと引っ込める。 通りがかりの学生風の男にも声をかけてみた。 「作品案内です。サイトにまとめてあって……」 「ネットのやつ? まあ、あとで見るかも」 軽く流される。その一言が、やけに重かった。 朝陽は商店街の端まで歩き、立ち止まる。紙の束は減っていない。減っていないのに、肩だけがひどく重い。 「一言で、って……こんなに難しいのか」 自分では整えたつもりだった紹介文も、外の空気に触れればたちまち曖昧になる。サイトの入口は見えるようになった。でも、その先にある魅力をひと息で渡せていない。 朝陽は紙の一枚を見下ろす。作品の輪郭はある。けれど、通りすがりの誰かの足を止めるほどの精度には、まだ届いていない。 「紹介文、まだ甘い……」 呟いた声は、商店街のざわめきに溶けた。それでも朝陽は紙を折り直し、もう一度、言葉を考え始めた。
物語を届ける紹介文
全年齢小説ID: cmsoz5hc0000o01pc60f0tteo
