深夜の部屋は、昼間よりも音が少なかった。時計の針が進む気配だけが、やけに大きい。朝陽は椅子に座ったまま、何度目かも分からない修正画面を見つめていた。 「これで……最後、かな」 指先でエンターを押し、ため息をつく。タイトル、説明文、案内の順番。昼からずっと見直してきたものは、ようやくひと通り整ったはずだった。画面を閉じかけて、ふと更新記録の一覧に目が止まる。最初は検索で見つけてもらうためだった。次は入口を分かりやすくするため。古い文を消して、短くして、並べ替えて、気になる言葉に直してきた。その履歴を遡るほど、朝陽の胸の奥に、別の感情がにじんでくる。 「……俺、ただ読まれたいだけじゃなかったのか」 独り言は、静かな部屋に落ちた。作品を届けたい。それは本当だ。けれど、もっと深いところでは、自分の書いた物語を自分で信じたかったのだと、今さら分かった。誰かに見つけてもらうことは、その証明みたいに思えていたのかもしれない。 画面の前で、朝陽はゆっくり背筋を伸ばした。 「信じたいから、整えてたんだな」 そのとき、スマートフォンが短く震えた。心臓が一拍だけ跳ねる。表示された名前を見て、朝陽は目を瞬いた。 『遅くまでおつかれさま。ちゃんと進んでると思うよ。無理しすぎないでね』 月音だった。 朝陽は画面を見つめたまま、思わず苦笑する。 「……見てたのかよ」 返そうとして、すぐには言葉が出ない。けれど、その短い文面は、さっきまで張りつめていた肩を少しだけ軽くした。誰かが気にかけてくれている。それだけで、追い込まれていた呼吸が楽になる。 「ありがとな」 返事を打ち終えた朝陽は、深く息を吸った。公開ボタンは、まだそこにある。けれど、もう怖さだけで眺めてはいなかった。 「よし」 小さく声にして、朝陽はマウスを動かす。指先が一度だけ迷い、それから、静かにクリックした。更新完了の表示が浮かび上がる。真夜中の白い光の中で、erabenovel.comは新しい形をまとっていた。朝陽はその画面を見つめ、ようやく肩の力を抜いた。
物語を届ける紹介文
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