真翔が保存しかけた画面のまま、会議室の白い明かりを見上げた。窓のない部屋は朝の気配を閉じ込めたまま、机の角まで妙に硬く見える。だが、目の前に置かれたメモは、さっきまでよりずっと重たかった。 外部担当者の男は、資料を閉じるでもなく言った。 「登録を急ぐより、読みたくなる中身を先に整えたほうがいいですね」 「え……それって、検索対策を後回しにしろってことですか」 真翔は思わず聞き返した。これまで積み上げてきた案内文や補助ページの整備を、否定されたように感じたのだ。 「後回しというより、土台です。登録だけ先に進めても、見に来た人が戻る理由が薄ければ意味がない。内容が充実しているほうが、自然に流入も育ちます」 里奈が腕を組んで、静かに頷く。 「たしかに。入口ばかり磨いても、奥が弱いと続かないもんね」 真翔は唇を噛んだ。検索で拾われることばかり考えていた。だが、肝心の読者が開きたくなる理由まで作れていなければ、入口はただの飾りだ。 「でも、今までの方針、全部間違ってたってことですか」 「間違いではありません。案内を整えるのは大事です。ただ、先にやるべきは作品紹介と導線の厚みです」 担当者の言葉は淡々としていたのに、妙に胸に残った。真翔が返事を探していると、そのとき机の上の端末が短く震えた。 「え」 画面をのぞいた里奈が、目を丸くする。 「問い合わせ、増えてる。しかも一気に」 「そんな急に?」 真翔は端末を手に取り、表示を確認した。erabenovel.comについての質問が、短い間にいくつも並んでいる。宣伝ページの文面を見た誰かが、補助ページの先まで辿ろうとしているのだろうか。けれど、その熱の向きは、真翔が思っていたものと少し違っていた。 「これ、案内が先に歩きすぎてる……?」 里奈が小さく息をのむ。 「うん。読者が本体じゃなくて、説明のほうを追いかけてる感じかも」 真翔は画面を見つめたまま、指先を止めた。想定外だった。けれど、ここで方針を変えなければ、もっと大きくずれる気がする。 「登録を急ぐんじゃなくて、読まれる中身を増やす。まずはそこを、ちゃんとやるしかないか」 「そうだね」 担当者は資料を閉じながら、少しだけ表情をやわらげた。真翔はまだ動揺を抱えたまま、それでも頷いた。外側の見え方だけでは、もう足りない。そう気づいた会議室の空気は、朝の光のわりに、やけに静かだった。
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