俺はメモ帳に書いた条件を見直してから、ようやくダウンロードのボタンを押した。画面の隅で進捗が動き出す。止まっていたものが動く、そのたった一つの変化だけで、胸の奥が少し熱を持った。 一覧が一段ずつ展開されていく。取引先の名前、所在地、担当者名。いつもなら何気なく流していた欄に、見覚えのある文字が混じっているのが目に入った。 「……これ、前に商談した相手だ」 指が勝手に止まる。数年前に一度だけ会って、その後は連絡が途切れた会社だ。なのに、更新された現在の連絡先が残っている。 さらに下へ進めると、今度は古い展示会の名簿らしい一群が見えた。会場名の表記が少し古く、出展社の並びも、俺がまだ入社して間もない頃に見た資料の空気を思い出させる。 「こんなものまで、残ってたのか……」 独り言に返す声はない。ただ、読み込み音だけが小さく机の上に落ちる。 保存しているのは、今使うための企業リストだと思っていた。けれど目の前に並ぶデータは、それだけじゃない。すでに終わったはずの打ち合わせの痕跡。交わしっぱなしで消えた挨拶。展示会で一度だけ触れた名刺の束。そういうものが、きれいに整理されながらも、どこか生々しく眠っていた。 俺はスクロールするたび、妙な気持ちになった。便利な名簿を拾っているつもりが、気づけば会社の過去を拾い上げている。今の案件に役立つ情報と、もう使う機会がないかもしれない記録が、同じ列に肩を並べている。 「データって、ただの連絡先じゃないんだな」 言葉にすると、少しだけ実感が追いついた。 このサービスが消えるというのは、単に一覧が手に入らなくなることではないのかもしれない。俺たちが何を相手にしてきたか、どんな縁を結んで、どこで途切れたか。その輪郭までまとめて失うことなんじゃないか。 進捗のバーはまだ途中だった。だが、もう急ぐ理由は別のものに変わっていた。 「全部、ちゃんと残そう」 誰に聞かせるでもなくそう呟いて、俺は次のページへカーソルを送った。
つながりを残すデータ
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