エラベノベル堂

つながりを残すデータ

全年齢

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第5章 / 全10章

自席に戻ると、さっきまで会議室で分けたはずの作業が、まだ机の上に熱を残していた。画面には保存済みのファイル一覧が並び、俺はそのひとつひとつを確認しながら、同僚が切り分けたバックアップの中身を点検していく。 「よし……ん?」 同じ会社名が、思った以上に多い。だが違和感は件数の多さだけじゃなかった。設立年が微妙にずれている。所在地の表記も、同じ市内なのに番地の書き方が違う。正式名称のはずなのに、末尾が一文字だけ異なるものもある。 俺は思わず画面を拡大した。 「え、これ同じ会社だよな……」 隣のモニターに並べて見比べると、同じ相手に見える項目が、少しずつ姿を変えているのが分かる。更新のたびに書き換わったのか、それとも別の枝葉が混ざったのか。どちらにしても、保存したはずのデータがすでに完璧ではない。 「待てよ。これ、まだあるぞ」 検索を少し広げると、似た名前の重複項目が次々に浮かび上がった。古い表記のまま残ったもの、途中で住所だけ変わったもの、担当者名が消えているもの。件数が増えるほど、さっきまでの安心感が薄れていく。 保存できた。だから終わりだ、とは到底言えなかった。 むしろ、終了直前だからこそ整理が甘いまま積み上がっていたのだと気づく。ひとつの会社に見えて、実際は何度も形を変えた記録なのかもしれない。俺たちはその層を、まだ全部は掘り切れていない。 「……完璧じゃないな」 口に出すと、妙に静かな声だった。 でも、その不完全さが逆に気を引き締めた。ここで見落としたら、後で必要になるものまで一緒に埋もれる。営業向けに残す先も、調査向けに拾う痕跡も、重複の中に紛れている可能性がある。 俺は指を止めずに、設立年の差分で並べ替え、所在地の表記を照合し、同じ会社名の群れをひとつずつ見直していく。 「まだ終わらないか」 小さく笑ってみたが、焦りは消えなかった。 それでも、精査は続けるしかない。終了までのわずかな時間に、残すべき相手を取りこぼさないために。

第5章 / 全10章

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