机に向かったまま、俺は保存済みの名簿をいくつも開き直していた。夜は深く、部屋の中ではノートPCの光だけが、紙の上の影を薄くしている。 「……同じ会社なのに、こんなに変わるのか」 更新履歴を追うと、取引先の連絡先は何度も書き換えられていた。担当者が変わり、番号が変わり、住所も少しずつ動いている。それなのに、古い関係は消えていない。前任者の名前が残り、昔の窓口が別欄に眠り、すでに使われていないはずの連絡先まで、完全には切り捨てられずに残っていた。 俺は思わず画面を拡大した。 「消えるんじゃなくて、積み重なってる……」 今までの俺は、こういうデータを新しいものほど価値が高いと思っていた。最新の担当者、最新の所在地、最新の番号。それさえあれば十分だと。でも、並べて見ているうちに分かってきた。古い情報が残っているからこそ、相手がどう変わってきたのかが見える。途切れたように見えた縁も、実はどこかで細くつながっていた。 「これ、ただの名簿じゃないな」 声に出すと、胸の奥にあった焦りが、少し違う熱に変わった。最新の連絡先だけを保存することが目的じゃない。何度更新されても消えなかった記録そのものが、相手との関係の厚みを示している。営業のための情報だと思っていた保存作業が、いつの間にか、会社がどう人と付き合ってきたかを手繰る作業に変わっていた。 俺は古い項目と新しい項目を見比べながら、同じ会社名の中に残る差分をメモしていく。以前の担当者名、変わった住所、残された旧連絡先。ひとつひとつは小さいのに、並べると関係の流れが立ち上がってくる。 「残す意味が、変わったな」 さっきまでの俺は、失う前に守るつもりで保存していた。でも今は違う。失われそうな最新情報を拾うだけじゃない。古い関係が消えないまま残っていること自体に、価値があると分かった。 カーソルを動かすたび、一覧の向こうに人の気配が戻ってくる。更新は終わっても、関係は終わらない。そういう当たり前を、俺はこの深夜になってようやく見つけた。 俺はもう一度、保存済みの名簿を最初から開き直した。
つながりを残すデータ
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